1019年9月 閑話:生と死との狭間には

一体何があるのだろう?

「お喜びください!エクボのかわいい、女のお子様です」

イツ花の言葉に合わせて居間に現れた少女は、キリッとした表情を浮かべながら周囲を見回した。
そして、視線を信武に合わせると、確認するように尋ねた。

「おとーさん?」
「ああ、オレがおとーさんだ。よく判ったな」
「おかーさんに教えてもらったんだ。ボクとよく似てるって」
「そっか、おかーさんに聞いていたか」

ニコニコ顔の信武が自分の子供を抱き上げると、それを合図に、兄弟達が信武の周りに集まってきた。
命音は優しく微笑みながら、信武の子供の顔を覗き込む。

「確かに顔つきは兄さんに似てるな。でも髪や肌は母さん譲りだね」
「おかーさんに?」
「ああゴメン、君のお母さんじゃなくて、僕のお母さん。君からみたらお祖母さんに当たる人の事だよ」
「おばーちゃん、知ってるよ。ボクと同じだった」

少女は当然そうに言った。
突然の言葉に驚く四兄弟。

「君は母上の……いや、祖母上の事を知っているのか?」

逢瀬が少女に問う。その問いに少女は頭を縦に振った。

「うん、おじーちゃんに会わせてもらったんだ」
「おじーちゃん……愛染院 明丸様の事か。一体いつの間に……」
「さっきまで居たのと同じ真っ暗な所。おじーちゃんと、おばーちゃんと、他に男神様が二人いたよ」
「他に男神様……もしや父上達も一緒だったのか……?」

少女の言葉に、兄弟達は皆困惑し、言葉を止めてしまった。

__命音は考え込んだ。
暗い場所、と言うの恐らく天界へと続く空間の事だと思われる。
命音もそこを通って高千穂の屋敷に来た記憶があった。
この少女は同じ場所で永環と会っている。
つまり、永環が旅立った後に訪れた場所と、この少女が居た場所は同じ……天界と言う事になる。

人は死ぬと神様達が住む天界へと導かれるのか?
それとも、永環の死後に何か別の出来事が起きているのだろうか?

__命音の思考を遮るように、初瀬が声を上げた。

「難しい事はワカンナイけどさ、今はこの子のお祝いをしなきゃだよ! ねぇ信武兄、もう名前決めてるの?」
「勿論。交神の期間中に姫さんと決めてた名前だ。女の子だった時は……」

そう言うと、信武は少女の瞳を真っ直ぐ見つめた。

「茜葎だ。お前の名前は今日から『高千穂 茜葎』だ」
「たかちほ……あかり……うん、判った」

少女…茜葎は嬉しそうに笑った。
信武はその笑顔を見ると、満遍の笑顔を浮かべ茜葎の頭を優しく撫ぜる。

「そうと決まれば! ねえイツ花、今から茜葎の歓迎会だよ! 美味しいご馳走いっぱい用意しなきゃ!」
「はいっ、畏まりましたっ!」
「アタシは早速会場の準備を……あ、逢瀬も手伝ってくれるでしょ?」
「おい初瀬、待……」

言葉の勢いのまま、逢瀬を引っ張り居間から出て行く初瀬。
残った信武、命音、そして茜葎はそれを見送った後、クスリと笑った。

「じゃあオレは茜葎に屋敷の案内をしてくるよ」
「ああ、いってらっしゃい。兄さん、そして茜葎」
「うん、行ってくる」

二人が居間から離れた後、見送っていた命音は唐突に気づいてしまった。

「……ん? そう言えばあの子、自分の事を『ボク』って言ってなかったか……? 東風吹姫様が教えた……とは思えないけど」

どうやら茜葎は信武の子らしく、型破りな所があるらしい。


※茜葎関連の話ですが、前回の閑話の話題が入ってきているので、天界側扱いにしました。

例の暗い場所、大活躍の巻。
いやもう汎用的過ぎて大変便利です。
絵を描く時も楽にスペース埋められるからホント助かります。

そういや来訪時の話を書いた事無かったなーと思って作ってみました。
ついでにちょっとだけ謎も散らばせてみる。それに気付くのはやはり命音でしょうね。
現状の高千穂家で自分たちに関わる謎に向き合っているのは命音だけな気がします。
逢瀬は多分自分の事で手一杯で気付かない気がする。
ちなみに信武と初瀬は前向き過ぎて多分そこまで考えてない。

命音は四兄弟の中でも参謀役だよなと思ってます。
指揮官が信武で特攻隊長が初瀬、後方支援が逢瀬って所でしょうか。
中々いいバランス配分ですね。

とうとう高千穂家にも4世代目がお目見えし、今までとはまた違った特色が出始めました。
この代の子達はどんな風になるのか楽しみですね。
世代が変わる時のワクワク感も、俺屍の醍醐味だよなって思います。

ちなみに信武の子供が男の子だったら「夕葎(ゆうり)」だった模様です。
(と、今決めた)