1021年12月 閑話:割れた鏡は戻らない。

全てが、後の祭り。


「あははっ。なぁ見たかい、公家達のあの顔!」

黄川人きつとの笑い声が周囲に響く。
地底の奥の奥、今はまだ名も無いその場所には黄川人以外の姿は見当たらない。
それなのに、何処からか彼の言葉に返す声がした。

『見たかいって、お前なぁ。俺の皮ひとのもんを何て事に利用しやがるんだ』
「いいじゃないか、どうせ残しておいても使えない代物だしサ。あんなブヨブヨな皮でもアイツらに一泡吹かせる事が出来たんだから、十分供養になったんじゃない?」

黄川人は自分の左手を見る。
そこには緑色の珠が埋め込まれており、黄川人へと返す声はそこから発せられていた。

『全く、趣味が悪い奴だよ。俺に一言も断り無しに帝共々内裏に集まってる最中に俺の皮ひとのもんぶち込んで、散々脅し文句を並べ立てた末に燃やしちまうんだからなぁ』
「あのままアンタの皮を残していって、アイツらの好き勝手に使われるよか全然いいだろ? それにさ、尊き方々の御前で荼毘に付されたんだって考えれば、至極光栄じゃないか」
『そういう所も性格悪いというかお優しいというか……ホントお前さんらしいな』
「あれだけ世間を騒がせた大江山の鬼を、アレだけで終わらせておくのが勿体ないなって思っただけサ。アンタの為なんかじゃない」
『判った判った、捻くれた愛情だと受け取っておくぜ』

その言葉に、黄川人はフンッとそっぽを向く。
珠の中からはククク……と笑い声が漏れてきた。

『で、体を無くして用済みになった筈の俺をこんな形で助け出しておいて、次はどんな事をさせるつもりだ?』
「おや、随分と物分かりがいいじゃないか」
『まぁ長いこと一緒にやって来てるからナ、少しはお前の考えも読めるようになってるさ』

黄川人が怪しい笑みを浮かべる。

「安心してくれよ、別に悪い話じゃない。この先ちょいと人手不足でね、人材確保の手伝いをして欲しいんだ」
『ああ、やっぱりその話か。あの姐さんもつくづく可哀想なこった。へへっ』
「アンタさ、口先だけで全然哀れんでるって顔してないじゃないか。……まぁいいさ、こっちは頭数を揃えてくれれば文句は無い」
『で、どれ位必要なんだよ、その頭数ってのは』
「そうだなぁ……」

そう言うと、黄川人は両手を広げた。

「ここに、ボクの庭を造るくらい、かな? 庭が出来たら是非招待したいヤツらが居るんだ。折角呼ぶなら最大級のお持てなしをしてあげたいから、ネ」
『まーた楽しそうな事を考えてるみたいだな。まぁ、俺も一緒にその様子を楽しませて貰うとするか。いいだろう?』
「勿論、一緒に楽しもうぜ。この楽園で」

今は何も無いが、そのうち小高い山の景色や川のせせらぎが来客を楽しませてくれる、そんな場所になるだろう。
完成するのが楽しみでならない。

「__来てくれる日を心待ちにしているゼ、なぁ兄弟?」

黄川人は嬉しそうに、にやりと笑った。


「やっとあの鬼を倒せたようね」

目の前のバーチャルボードを見ながら、その人はぽつり呟く。
その言葉に呼応するかのように、その人の侍従が部屋に入ってきた。

「ご報告致します。『鏡』の解除を確認致しました。贄となられた方々が次々とお戻りになられています」
「そうですか。ならば盛大な宴を催さないといけませんね。皆々様の苦労をねぎらうための」
「畏まりました」

侍従は音も無く退室する。
その人は改めてバーチャルボードに目を向けた。

「でも……あの子達なら一年前でも十分倒すことが出来たでしょうに、何故止めたのかしら?」

部屋には既に誰もいない。
それなのに、あたかも誰かに話しかけているかのように、その人は言葉を続けている。

「ええ。ほんのちょっぴりの誤差だから、コチラからすれば全く問題無いんですけどネ」

一族の事情などその人にとっては些末なことだ。
一年なんて時間は、この先に続く自身の長く終わりの見えない生涯からすれば誤差にすらもならないのだから。

「……まぁ、いいでしょう。一次審査、合格ですっ☆」

その人は、ニッコリと微笑んだ。


その頃の、あの人達。
各々好き勝手に楽しんでいるみたいです。

黄川人と鬼朱点の悪役コンビ、立場逆転してます。この二人ってば、いい味出してるよなー。
この辺はプレイヤーの想像なのですが、朱点閣で黄川人が去る直前にわざわざ手のひらの珠を一族へ見せたことに何の意味があったのかなーと思ってまして。
今回はこういう形で使わせて頂きました。
新テーマパーク「黄川人のわくわく鬼ヶ島(仮)」は今から開園準備をするらしいのですが、人気キャストの船とおばばはどこからヘッドハントしてくるんだろ?
そういう妄想もまた楽しいですね。

あの人は……いつまで「その人」扱いなんでしょうねぇ?
天界には名前を呼ぶと何か面倒な仕事を押し付けられる呪いでもあるのかしら。
この人もこの人で色々企んでいるみたいです。多分近々動き出してくる事でしょう。