休題:大江山越え後の高千穂一族について

「一族の命題」とは?

今回の休題は大江山の朱点童子を倒し帰宅した時点での高千穂一族について語っていこうかと思います。
大江山越えがどう捉えているのかは一族によって違ってきます。
その部分について、大江山越えまでの流れを辿りながら一人ずつ解説を入れていきますね。
高千穂一族の大江山に関しては未だ言葉が纏まらない状態ですが、現時点で言語化出来る部分を存分に詰め込みました。

ここでは敢えてプレイヤー判断云々は入れません。
(それを入れるとプレイヤーの言い訳三昧になるのが目に見えているので)
あくまで一族の現状や心境を掘り下げていくスタンスで進めて行くため、どうしても一族に対して厳しい物言いになってしまっている部分があります。
きっとプレイヤーが心を鬼にして泣きながら書いているんだな……などと思いながら読んで頂ければな、と。

高千穂たかちほ 雪衣ゆいの場合

前年の大江山討伐隊における隊長であり、去年朱点閣を目前にして撤退を決めた先代・三代目当主です。
大江山越え直前に旅立ってしまったので直接的には大江山越えに関わっていませんが、高千穂家の大江山越えを語るにはまず「雪衣にとっての大江山討伐」から語る必要があるかなと思い、今回項目を設けました。

去年雪衣が大江山越えを目前撤退した理由は大きく分けて二つあります。

  • 自己保身。
  • 一族の未来を杞憂して。

割合としては9:1なので、殆ど自己保身が理由と言って良いのかなと。

雪衣の自己保身は生前から色々と書かせて頂きましたが、言うなれば彼女も冬郷と同じように「初志貫徹」に囚われた人でした。
彼女にとっての「初志」は「信武しのぶの望む事を叶えてあげたい」です。
二代目当主・信武の時代は高千穂家にとって(現時点で)最も家族仲が良かった時期。
その状態を雪衣はどうしても維持し続けなければならなかったのです。

だって信武にそれを誓ってしまったから。
誓いを違うことは、雪衣にとって信武を裏切ることと同じ。雪衣にそんなことが出来る訳がない。
この時点で、雪衣にとっての「一族の命題」は「悲願達成」でも「解呪」でも無くなっていたのです。

去年の大江山討伐を終えた後からの雪衣の行動は、殆ど全て「理想と感情との帳尻合わせ」に集約されますね。
その辺りについてはプレイ記本編で取り扱っているので詳細は割愛しますが、最終的には「自己犠牲」と言う形で自分の中で折り合いをつけています。

しかしこれはあくまで雪衣の中だけの話で、外から見た場合に雪衣の言動は理解し辛かったのではないかなと思います。
プレイ記を読んで下さっている皆様の中にも雪衣の思考と言動が合致しない部分を感じられていたのではないかと想像しておりますが、実はそれが正解だったりするのです。
大江山討伐以降の雪衣は徐々にですが精神のバランスを崩していました。
冬郷がプレイ記内で「気でも狂ったか」と言ってましたが、本当にその通りだったのですよ。
だから彼女の最期はああいう形で締められていて、その後がああいう形になってしまった訳です。

本来なら自分だけで精一杯な精神状態だった雪衣にとって、1割ほど残った心配の種が冬郷の存在でした。
冬郷の今後を不安視していた雪衣ですが、同時に同じ穴の狢同士でもあります。
「初志」に囚われ、自分に都合良く「一族の命題」をすげ替え、「自己保身」に走ってしまった。
そんな雪衣に冬郷の言動を諫める術は無く、冬郷も雪衣を含む年長者達の懸念に終ぞ気付く事無く、何の解決策も無いまま二度目の大江山討伐が行われてしまったのでした。

高千穂たかちほ 冬郷とうごの場合

大江山越え時点で一族の最年長者であり、大江山越えメンバーの一人。
そして、高千穂家が大江山越えには欠かせないキーマンとなります。
と言うか、大江山越えは冬郷の物語そのものと言っていいのかもしれません。

冬郷の評価は、冬郷から見て年長か年少かによって大きく異なります。
年少者達から見た冬郷は「朱点童子打倒を目指し奮闘する熱血漢」ですが、年長者達から見た場合は「朱点童子打倒しか見えておらず言動が極端すぎる」に変わるのです。
父親の逢瀬おうせは彼の未来を危惧し、同世代の茜葎あかりは彼に対し何度も忠告していました。
それ位、年長者には冬郷の存在に不安を感じでいたのでしょう。

不安要素の一つ目に挙げられるのは、勧善懲悪過ぎる彼の思想です。
自分が正しいと思ったら他人の事情なんて顧みない。悪と決めたら徹底的に叩きのめす。
一族内なら「冬郷の性格だから仕方ない」で済む話ですが、赤の他人相手では恨みを買う可能性が非常に高いです。
相手がもしも内裏の貴族や帝だったら、冬郷だけではなく一族郎党全てに影響が出てしまう訳で。
もし悲願達成を叶えたとしても、その後に冬郷が新たな火種となりかねない。年長者達は皆それを危惧していました。

二つ目の不安要素は、冬郷が「朱点童子打倒」だけしか考えておらず、大江山を越えた後のビジョンを全く持っていなかった事。
今まで彼の口から朱点童子打倒後についての言葉は一つも出ていません。
それどころか「今はそんな事を言っている時じゃない」と拒絶する勢いです。
年長者達には目的を果たした後の冬郷が想像出来ず、どうなってしまうのか気掛かりでした。

そして、年長者達が一番頭を悩ませていたのは、冬郷のアイデンティティが正にこの二つの不安要素から成り立っている事です。
彼がずっと己が正義として掲げていた「一族の命題」は、決して一族を含む他人の為なのではなく、自分を言動を正当化する為の根拠でしかないのです。

自分の道理が何よりも正しいのだから、反目する意見が存在して良い訳がない。
自分の言動が誰かを傷付けたり、ましてや誰かを不幸にしているなんてありえないし、想像すら出来ない。
そして、自分の言動が他人に対して驕っているなんて微塵も思わない。
……冬郷は完全に「井の中の蛙」な存在だったのです。

結果として、冬郷は大江山越えが原因で己のアイデンティティを失います。
朱点童子を倒しても呪いを示す額の珠は残り続けているどころか、更なる悪の封印を解き放つ=自分が悪事の片棒を担ぐ結果になってしまった訳で。
彼の中で善と悪がひっくり返り、自分を正当化出来る根拠を失い、でも他に縋れる物も見つからず茫然自失状態となっています。
過去、茜葎が言った「そのうち痛い目を見るよ」が現実になったと言えるでしょう。

冬郷は大江山越え時点で既に1才4ヶ月。一族の人生的には既に終盤に入っている訳で。
人生を巻き返すにしても、時間はあまり残っていません。
とは言え、冬郷の物語はまだ続きます。
今後も大江山での出来事が彼の人生に多大な影響を及ぼすことは間違いないでしょう。
そういう意味では、冬郷にとって大江山越えはまだ終わっていないんだろうなとプレイヤーは思ってしまうのです。

高千穂たかちほ 昴輝いぶきの場合

大江山越え時の高千穂家当主であり、大江山越えメンバーの一人です。
鬼朱点にとどめを刺したのが昴輝になりますが、あの時は昴輝の意思ではなく「何となく当主の指輪に導かれてパパンストラッシュを使った」と言うのが彼的には正しい表現になりますね。
きっとあの場に残っていた源太の残留思念が指輪を介して昴輝にそうさせたのかなぁ、なんてプレイヤーは思っていたりしています。

さて、大江山越えメンバーの中で帰宅後に唯一通常運転なのが昴輝なのですが、彼が他の面子に比べてショックが小さく見える理由は下記の3点ですね。

  • 周囲のショック度合いが大き過ぎるのを見て、何だか冷静になってしまった。
  • 大江山から戻ってからも当主として何かとやる事が多かった。
  • 昴輝自身は大江山越えに別段思い入れを持っていなかった。

昴輝にとって大江山は確かに「一族の命題」ではあるけれど、同時に「他人事」なのだと捉えています。
悲願達成よりも家族との関係や、母親から受け継いだ事業で得た商売仲間達、そして何よりも今生きている時間を大切にしたい。
そういう意味では信武系統の思想を色濃く継いでいると言えますね。

そんな昴輝が大江山を越える選択をしたのは、家族が強く望んでいたからです。
必ずしも大江山越えが幸せを呼ぶと昴輝自身は思っていなかったのですが、家族が強く望んでいたから「当主判断」として大江山越えを選択しただけです。
年末商戦を理由に自身の大江山出陣を渋っていたのは、昴輝にとって大江山に関わる一族の因果はあくまで「他人事」でしかないという根底意識があったからなのです。

さて、大江山越えを果たした今、昴輝には大江山に関連する「咎」は本当に無いのでしょうか?

今まで高千穂家が大江山に攻め入るチャンスは3回ありました。
一度目は信武が当主の時で、戦力的に無理と判断し大江山へ行く事自体を止めています。
二度目は雪衣が当主の時。これは前述の通りです。
そして三度目、今度は昴輝が当主として大江山越えに関する決断をした訳ですが、前二人の当主と大きく違うのは「自分の意思ではない」って事ですね。
もうちょっと具体的に言ってしまうと、昴輝は大江山越えに関する自身の判断に全く責任を持っていないって話になるのです。

つまり、今の状況で昴輝が平然としていられるのは、決して昴輝がメンタルマッチョだからではなく、今回の沙汰が自分の責任じゃないってスタンスだからなのです。
(故に昴輝は今なおポジティブに行動しようって考えている訳ですが)

「他人事」というのは残酷な言葉ですよね。
都合が悪くなったら離脱できる言い訳となり、誰かに後始末をなすりつける為の理由にもなります。
彼にとっての「オレ頭悪いから」は、責任逃れの言い訳でしかないのです。

今までずっと誰かに頼って生きてきて、それが当たり前になっていた昴輝にとって、立場上逃げることも出来ず誰にも助けて貰えない今の状況はかなりキツいだろうなぁ。
昴輝本人は自分の悪い部分を幾つか認識しているみたいですが、どうにも本質的な改善とまでは至っていません。

大江山越え当主である昴輝の苦悩は、まだはじまったばかりみたいです。

高千穂たかちほ 報世しらせの場合

大江山越えメンバーの一人で、鬼朱点戦においてダメージソース役を担った、言わばMVPですね。
……その活躍が実る事はありませんでしたが。

高千穂家に伝わる「一族の命題」は、彼にとって自分を縛り付ける鎖であり、心身共にプレッシャーを与え続ける重しでもあります。
この苦しみから解放されるためには「一族の命題」を解決する事……朱点童子を倒し身に受けた呪いを解くしか方法がない。
だから報世は嫌々ながらも家族と共闘し、天界側の意思に背くような言動は慎みつつ、大江山越えの時を心待ちにしていました。

ただ、報世の行動には自身がずっと目を背けている矛盾が存在しています。
自由を求め「一族の命題」の解決を望みながらも、彼はずっと自分から率先して動く事はありませんでした。
同時に、あれだけ運命に絶望し、家族に対し悪意を抱いていても、逐電せず善人を装いずっと高千穂家に居座っています。
何故矛盾に背を向けてまで、わざわざ生きづらい日々を送っていたのでしょうか?

答えは至極簡単、報世のプライドが高かったからです。
誰からも憧れられるような優れだ人物だと思われたかった、格好悪い姿を見せたくなかった、ただそれだけなのです。
報世にとって自身の高過ぎるプライドだけが、高千穂 報世という人物を存続させる唯一の存在証明でした。

そんな報世のプライドを傷付け存在を脅かす人物が、よりにもよって同世代に二人も居ました。
カリスマ持ちで他の人が思い付かない想定以上な言動を自然とやってのける昴輝と、天界お墨付きのギフテッドであり先を読み謀略を張り巡らせるのを得意とする夏来。
見た目を金メッキで固めただけな凡人である(と認めたくない)自分に対し、本物の天才がどんなものかをまざまざと見せつけてくる二人の存在が報世には鬱陶しくて堪らなかった。
この事もまた、報世が早く自由になりたい、高千穂家から離れたいと強く願う理由となっていたのです。

生まれてからずっと、今にも押しつぶされそうな「一族の命題」という苦しみを何とか堪えつつ、無自覚な天才達に幾度となく痛めつけられた傷だらけのプライドを守りつつ、報世はようやく念願の「大江山越え」をこの目で見届けました。
でもそれは彼が望んだ未来どころか、更に自分の状況を悪化させる結果を生んでしまいました。
報世にとってそれは想定外……考えてすらいなかった、絶対にあってはならない展開であったのです。

報世からすれば大江山越えは「蜘蛛の糸」でした。
それを失った今、報世に希望は残っていません。
世界はどの方向を見ても針のむしろで、救いの糸も心許せる味方もいない。
彼にとって、本当の地獄はこれからなのです。

高千穂たかちほ 夏来なつきの場合

高千穂家のブレーンで、大江山越えにおいてただ一人「その後」のことを予測していた人物です。
円子と陽炎を高千穂家で初めて夏来が習得した事も、プレイヤーが大江山越えを後押しした理由になります。

さて、現在絶賛飲んだくれ中な夏来ですが……実は彼にとって大江山越え自体は特に何も思い入れはありませんでした。
と言うのも、彼が見据えていたのは「その後の世界」だったからです。
大江山を越えようが、一族の呪いがどうなろうが、結局彼にとって重要なのは「高千穂家の未来」です。
本物の朱点童子が顔を出してきた事で多少の軌道修正は発生しますが、それも彼にとっては「想定内」の出来事であり、既に先回りして手は打ってありました。
前回の閑話でイツ花が口に出した「高千穂家への詮議」がほぼ無かったのは、これまで夏来が影で進めていた内裏に対する政治的手腕が上手く働いた結果でした。
(簡単に説明すると、返歌の件を切っ掛けに夏来は帝や内裏の貴族達の懐柔を図っていたからです)

とは言え夏来がそれ程までに高千穂家へ忠誠を誓っているのかというと、そういう訳でもありません。
高千穂家の隆盛は、彼にとって「カードの一つ」です。
武家として高千穂家が権威を持てば持つほど、夏来にとって使い勝手がよくなるから、それだけなのです。

じゃあ夏来の都合は何なのかって話なのですが、これは格好良い言い方をすると「世界の謎に挑む」って所ですかね。
何だかいきなり壮大な話になっていますが、今はそこまで大きな話ではありません。
京の町では色んな鬼に関連した逸話が流れていて、逸話に関連する鬼達にも何やら事情がありそうで、その辺りに夏来が興味を抱いた……と言った方が現状に合う説明なのかな?
自分のやりたい事をやる為にはよりよい環境があれば尚良い。って事で高千穂家の隆盛に努めているわけです。
お金も情報もいっぱい集まった方がいいからね。

そんな夏来にとって「想定外」だったのが、報世の挙動でした。
夏来にとって報世は「何やら問題を抱えているみたいだけど役に立つ助手」と言った認識だったのかと。
討伐中の問答に唯一まともに返事していたのが報世だったので、夏来が便利な存在だと考えてしまうのも当然ですね。

夏来は、高千穂家の大江山越えは11月にと考えていました。
自身が円子と陽炎を習得した事で条件は揃ったと判断したからでしょう。
11月に報世の交神予定が入っているのは知っていたけど、もしもの時は翌月報世にお願いすれば良い、そういう魂胆でした。
そんな想定を報世にぶち壊され、更に自分へ噛みついてきて、とんだしっぺ返しを食らったわけです。

報世のしっぺ返しから来る精神的ショックは、夏来が自身で想像する以上に大きなものでした。
結果、飲んだくれ状態になっていまして。この辺については後々語らせて頂きます。

「一族の命題」である悲願達成を「通るべき過程の一つ」としてしか考えていなかった夏来でしたが、本当の意味に気付くにはもう少し時間が必要なのかもしれません。

高千穂たかちほ 燈衣とういの場合

現時点において高千穂家のニューフェイス。未だ討伐未経験で色んな意味で未知数な子です。
同時に現存一族で唯一、大江山の出来事を実体験していない子でもあります。

燈衣については前回の閑話でも語ったのですが、基本冷めた子です。
大江山についても話を聞いた時に「まぁそういう事もあるよね」って感じな事を言っただけで、それ以降はあまり大江山の話題に触れようとしません。
だからと言って全くショックが無いって訳ではなくて、呪いが解けるかも……と言う希望が消えた事については悲しく感じています。
ただ、そこに「そう上手く話が進むわけ無いとは思ってたけど」って諦めの枕詞が毎度の如く引っ付いてくるだけで。
彼にとってそれが自分を守るための手段なのです。

父親の昴輝が平常運転な事は、燈衣にとって幸いな事だったかと思います。
もしも昴輝までヘコんでいたら、翌月以降は実戦経験の無い燈衣がどうにか動かないと行けなくなる羽目になっていましたからね。

年を跨いだ1022年から燈衣が本格的に動き出してきます。
大江山越えの件を受けて、燈衣とこれから来るであろう彼の同世代の子達が「一族の命題」をどう解釈し、立ち向かっていくのか。
新しいステージが開くのを目前に控え、大江山越え前後を知る燈衣の立ち位置はとても重要になってくるだろうなとプレイヤーは思っている訳です。