1020年9月 閑話:少女と呪いとこんこんちき

仲が良いのか悪いのか。


出会いは、最悪だった。

「なんだ、童か。何でこの俺が子供の御守をしなきゃいけねーんだよ」
「ならさっさと用事を済ませて帰ればいい。ボクも必要以上に面倒なオッサンの相手なんてしたくない」

茜葎の目前に稲荷ノ狐次郎が居る。
しかし二人の様子は今から交神を行うとは到底思えない状況であった。
互いに嫌そうな表情を浮かべ、仲良くするどころか今にも戦闘が始まりそうな気配さえも感じる、一触即発を絵に描いた様相である。

「神様相手によくそんな口が叩けるもんだ」
「一度堕天した神様は性格が捻くれてるんだね。あ、逆か。捻くれ者だから堕天したのか」

そこまで茜葎が言った所で、稲荷ノ狐次郎の手が茜葎の首にかかる。
しかし茜葎は表情を変えること無く、ずっと稲荷ノ狐次郎の方を見ていた。

「お前、命が惜しくないのか?」
「別に。ここで死んでも大して人生変わらないし、そういうのを想定してコッチも動いてるから」

そう茜葎に言い切られた稲荷ノ狐次郎は、軽くため息をつくと茜葎の首にかけていた手を下ろす。

「大した度胸だな」
「そうでもないと、中々立ち回らないお家柄だからさ」

あくまで態度を変えない茜葎を見て、半ば呆れ顔で稲荷ノ狐次郎は言葉を続けた。

「……で、何をご所望なんだ。わざわざ奉納点を使って来てるんだ。一応希望位は聞いておいてやる。叶うかどうかは別だけどな」
「可能なら呪いにヘタレない程度には強い子を。それと一つ聞いてみたい事がある」
「聞きたい事?」
「鬼になっていた時に、何を考えていたのか」

稲荷ノ狐次郎の眉間に再度皺がよる。

「は? んな事聞いてどうするんだよ」
「神様って、ボク達よりも相当強い存在なんだろうなって思う……アンタも含めて。そんな神様でも、鬼にされる呪いを受けている時は、やっぱり辛かったのかな、って思ってさ」

そう言った茜葎の表情が、ほんの少しだけ暗くなったのを、稲荷ノ狐次郎は見逃さなかった。
目を細め、一息吐いてから、静かに茜葎へ言葉を返す。

「正直鬼の時の事はよく覚えてない。アレは呪いって言うか捕縛に近かったからな。気がついたらお前らに解放されてた」
「……そうなんだ」
「ただ、まぁ、辛いって言えば、辛かったのかもな。呪いに対する負の感情を、吐き出したくて仕方なかった。何で俺がこんな目に合わないといけないだ、ってさ……今のお前みたいに」
「え?」

茜葎は素で驚いた顔をする。

「お前、ホントは辛いんだろ、自分の身に受けた呪いの存在が」
「そんな事ないよ。呪いって言っても生きてる上ではあまり悪影響は無いし、人が死ぬなんて当たり前の事じゃないか」
「だからこそ、呪いが何なのかを実感出来なくて怖い……と言った所だろ?」

稲荷ノ狐次郎の言葉に、茜葎は言葉を詰まらせ、俯こうとする。
しかし稲荷ノ狐次郎は俯こうとした茜葎の顎に手をやり、無理矢理顔を自分の方を向けた。

茜葎は、辛そうな目で稲荷ノ狐次郎を見つめていた。
その表情は先ほどまでの威勢のいいものではなく、年相応の少女のものだった。
そんな様子の茜葎を見て、稲荷ノ狐次郎は自然に表情を緩めた。

「虚勢なんて張るな。怖いなら怖いでいいんだよ。神様俺らも不老不死だって言われているが証拠なんてない。本当に自分は死なないのかって怯えてる奴だって居る」

稲荷ノ狐次郎は茜葎の顎から手を離すと、その手を茜葎の頭に乗せ、軽く撫ぜた。
茜葎は動けないまま稲荷ノ狐次郎の為すがままにされている。

「得てしてそういう事を考える奴は、かなりの暇人か頭が回りすぎて余計な事ばかり考えてるような奴だ。で、答えが出なくて袋小路に陥ってる。お前が知りたい呪いの正体なんてそんなもんだ」

そこまで言った所で、稲荷ノ狐次郎は何か思い付いたような素振りを見せる。
そして、再び不遜な表情を浮かべた。

「そうだ、良い事を思い付いた。お前、俺の暇つぶしの相手をしろ」
「は? 何言ってるんだよ。ボクはさっさと交神を終わらせて……」
「地上に戻って呪いの事で再び頭を悩ませているより余程いいだろ? ここに居る短い間だけでも、呪いの事なんてこの俺が忘れさせてやるよ」

稲荷ノ狐次郎が指を鳴らす。

その瞬間、茜葎の衣装が鮮やかな色合いの、まるで女性貴族が着るような豪華な着物に変化していた。
ご丁寧にも化粧まで施されている。
その姿はさながら絵巻物に出てくる姫君のように美麗であった。

「ほぅ、そういう格好も中々似合うじゃないか。やはり女は化けるもんだ」
「ちょっと……ボクには……こんな派手な着物なんて似合わないから……」
「少しは自分の中にある女の存在も認めろよ。まぁ少々幼顔で、チビで、胸も平た……小さいが、十分いい女だぞ?」
「なっ……ボクの事をバカにしてるのかっ!」
「フッ、元の威勢の良さが戻ってきたじゃないか」

そう言うと、稲荷ノ狐次郎は茜葎を抱き上げた。

「どうするんだ、交神。やるのか、やらないのか?」
「……やる」
「なら、まずは名前を教えろよ」
「茜葎……高千穂 茜葎」
「茜葎か、いい名だ。次は俺の名前だ。知ってるだろ」
「稲荷ノ……狐次郎……様」
「狐次郎でいい。安心しろ、悪いようにはしないさ」

茜葎が稲荷ノ狐次郎の肩口を握る。

「ボクは……何をすればいい?」
「そうだな……」

稲荷ノ狐次郎は一呼吸置いてから、こう続けた。

「俺の前では「わたし」って言えよ」

「え?」
「普段のしがらみなんて全部取っ払って、唯の女として、俺と一緒に居るといい」

茜葎はコクリ、と頷いた。
その頬が、ほんのりと赤く染まっている。
こうやって見ると、本当に綺麗な娘じゃないか。胸は無いに等しいけど。
稲荷ノ狐次郎はそんな茜葎の姿を見て、無意識に優しげな笑みを浮かべた。

まぁ、何と言うか。
後は野となれ山となれ……だな。


茜葎の交神話。
この二人、書いていて丁々発止の連発になってしまい、どう区切りをつけていいのかめっさ困りました。
とりあえず纏まってよかった。

まずは茜葎について。
茜葎は悲願達成に興味がなくて、単純に短い一生の中で出来る限り自分が興味ある事をやってしまおう、と言う性格の子だとプレイヤーは認識しています。
なので、交神については人生におけるクエスト扱いで、出来るだけさっさと終わらせて残り期間を自分の時間にしよう、って考えだったんだろうなーって思います。
残念ながら、その魂胆は脆くも崩れそうな様子ですが。
まーでも普段体験しない一月を過ごせると言う意味では、彼女の行動指針から考えると結果オーライなんだろうけどね。

でもって、稲荷ノ狐次郎様について。
正直、この神様が先に折れなかったら、この話は終わらなかった…。
ありがとう稲荷ノ狐次郎様、あなたが大人の対応?をしてくれたお陰で何とか纏まりました。

この二人、当初はこういう感じになるとは思ってませんでした。
実機プレイ時は、茜葎が興味津々で稲荷ノ狐次郎様は変な奴だなーって考えているような軽い感じを想定していました。
コミカルとまでは行かないけど、やり取りが楽しい、そんな関係になると思っていたんです。
ホント意外としっとりしてるなー、稲荷ノ狐次郎様の方も結構絆されてるし。

個人的解釈としては、稲荷ノ狐次郎様は本来ここまで人間に関わろうとする人じゃない気がするのですが。
そこは潔く「相手が茜葎だから関わっているんだよ」って事にしておこうかなと思います。

それと呪いに関して。
一族は短命と種絶の呪いを受けている訳ですが、当人にとっては「それが当たり前」なんだろうなぁ。
不利益な事実であることは理解していても実感が無い。
恐らく呪いの神髄を知るのは自分が死ぬ直前になってからなのかなと。

茜葎は聡い子なので、きっと幼い頃から呪いに関して色々と考察をしていたのでしょう。
そして、明確な答えが出せずに自分の好きなように生きる事で恐怖心を誤魔化しているのかなと思います。
稲荷ノ狐次郎様も茜葎のそういう部分を見抜いたから、茜葎と関わろうとしたんだろうなぁ、と。
お互い呪われた経験がある者同士、喧嘩しつつも仲良くしてくださいな。

そういや高千穂一族における稲荷ノ狐次郎って、おっ○い星人なんですか?
(身も蓋もない疑問)

※今まで漫画で描いていた閑話を「基本的には文章+イラスト」に切り替えました。
(主に更新スピードの問題です……漫画描くのが遅過ぎるので……)

 とは言え、漫画で描きたいエピソードが出てきた時には描けたらいいなと思っています。
 プレイ記で漫画をコンスタンスにUP出来る方はホント凄いよなぁ。