1021年8月 選考試合:夏


———選考試合開始直前———

冬郷
冬郷

術を多く使って試合の手数を出来るだけ増やせって、お前は対戦相手に対して手を抜けと言っているのか? そんな卑怯な事が出来る訳……

夏来
夏来

違いますよ、父さん。手を抜くのではなく、僕達の未来の為に選考試合を盛り上げる必要があるからですよ

冬郷
冬郷

未来の為に試合を盛り上げる? 何でそんな必要があるんだ??

夏来
夏来

僕達が朱点童子を倒した後にこの京で生きていくためには、京の人達……特に内裏の人達には深く好印象を残さないといけない。その為には、ただ圧勝するだけでは駄目なのです

夏来
夏来

この場に於いて単純に武力を誇示しただけでは、僕達は朱点当時討伐後に「内裏を脅かす危険人物」として目を付けられてしまう

夏来
夏来

僕達は圧倒的に強い。だからこそ京の人達にとって「害の無い勇者」のままで居るためには、戦い方を工夫して「見ていて面白い試合」を作りだし、皆から僕達に対する恐怖心を取り除かなければならないのです

夏来
夏来

父さんにならそれが可能だと僕は思っています。だから、どうか僕の進言を受け入れては貰えないでしょうか?

冬郷
冬郷

あ、ああ。お前が言いたい事は判った。お前が望むような内容に出来るかは保証出来ないが、出来る限りは協力しよう


———選考試合開催期間中———

夏来
夏来

いくら三代目当主が指名したとは言え、昴輝に当主職は荷が重すぎる。あの人の良さを利用する人間は今後いくらでも出てくるだろう……例えば僕みたいに

夏来
夏来

彼の心を深く傷付けない為にも、高千穂家の未来のためにも、昴輝に気付かれないよう彼から当主であった事実も含めて消し取らなければいけない。多少手荒な手段だが、致し方ない

夏来
夏来

……それに、使える手駒は幾つあっても困らないし、ね


———選考試合終了後、夜———

雪衣
雪衣

お疲れ様、報世。試合は全て見ていたわ。優勝おめでとう

報世
報世

………………母君、ありがとうございます

雪衣
雪衣

今の貴方達なら朱点童子を打ち倒す事が出来るわ。その力は十分あると思ってる。でも……

雪衣
雪衣

今回の試合、どんな思惑を持って戦っていたの? 私には貴方達の戦い振りが「試合」ではなく「見世物」にしか見えなかったわ

報世
報世

母君…………………………

雪衣
雪衣

あれは私達……高千穂家の戦い方では無い。どうしてあんな「演出」をしたのか、もし報世が何か知っているのなら教えて頂戴

報世
報世

………………………………

報世
報世

………………何奴も此奴も「高千穂家」「高千穂家」って、そんなに「家」が大事なのかよ

雪衣
雪衣

えっ、報世……?

報世
報世

ああ、違うか。そう言えば「家のため」って名目はこの家では全て自分の願望を押し通すための言い訳だったな。この家に居るヤツは皆そう言えば全部許されると思っているんだ。清々しいほど自分勝手なヤツばかりだよ

雪衣
雪衣

待って報世、貴方何を言って……

報世
報世

お前だってそうじゃないか! 今まで何度も自分の私利私欲を「家のため」だと誤魔化して虚栄心を満たしてきたんだろうっ!

報世
報世

好きな男へ見栄を張るために当主の権力を乱用して周囲を振り回し、嫌な現実から逃げ出す為に好きでも無い男と子供後釜を勝手に作っておいて、ソレが期待外れだからって別のヤツに家督を放り出す。挙げ句の果てに起こした問題は全て置き去りにして「自分は家の為に犠牲になった不幸な女」と言う美徳を背負って死ぬつもりなんだろう? ……あまりに下らなすぎて反吐が出るぜ

報世
報世

そんな穢らわしい女の血が自分の中にも流れてると思うと……虫唾が走りすぎて気が狂いそうだ

雪衣
雪衣

し…………ら……せ………………?

報世
報世

気持ちの悪い声で俺を呼ぶな。俺はお前に関わるもの全てに関わりたく無いんだ。……二度と俺に話しかけないでくれ

雪衣
雪衣

………………………………

主な戦利品:無一文茶碗、竹尺八花入、竹二重花入、一物茶碗、天目茶碗