1021年1月 閑話:ピュア・スノウ

出会った日も雪が降っていた。


__雪が降っている。

ここはとても煌びやかな場所。
夜なのに色んな光が見慣れない建築物から放たれていて、その光が雪に乱反射し、まるで周囲が星空のようにきらきら輝いて見える。
幻想的な光景に、思わず目を奪われてしまう。

目の前を歩いていた『あの人』がこちらへと振り返った。
見慣れない衣を纏ったあの人は、私に優しく笑いかけ、手を差し伸べてくれる。

「来いよ、雪衣」

暖かみのある声で、私の名前を呼んでくれる。
私はそれが嬉しくて、あの人に近づこうとして。
……そこで目が覚めた。

目に映るのは、見知った屋敷の天上。
周囲はとても静かで、まだ夜明け前だが襖の向こうは明るい。
この様子だと外では雪が降っているのかもしれない。

あの幸せな時間が夢だったと実感し、雪衣は両手で顔を隠した。


雪衣の交神の儀を翌日に控えた日の夜、高千穂家の女子3人が雪衣の部屋に集まっていた。
初瀬が持ち込んだ飲み物やお菓子を広げ、楽しくおしゃべりに興じる。
時々行われる、高千穂家の女子会だ。

「でもさー、明日は雪衣の交神なんだよね。お相手はもう決めた?」
「……ええ、もうほぼ決めているわ」
「いーなー、交神って何だか楽しそうだよねー」
「初瀬さんもすればよかったじゃないか、交神」
「仕方ないじゃん、神様には私の王子様がいなかったんだもん。っていうか、茜葎はいつ交神の話してくれるの? 聞くのすっごく楽しみにしてるのにー」
「別にいいだろ、ボクの事なんて。大した話じゃないんだし」

三人とも楽しそうに会話を弾ませている。
そんな中、初瀬は雪衣に問いかけた。

「でもさ、本当にいいの? 交神しちゃって」
「え?」
「当主だからとか家の為とか、そんな理由で交神するのを決めて無いよね?」
「初瀬さん、ちょっと」

茜葎が初瀬を止めようとする。
しかしお構い無しに初瀬は話を進めた。

「雪衣って他人の為に動いてばかりだから心配なんだよ。アタシ、雪衣にはホントに幸せになって欲しいから。自分の気持ちを隠して交神して、一人で傷付いて欲しくないんだよね」

黙り込む茜葎。
雪衣は初瀬の言葉を聞き、薄く笑みを返した。

「ありがとう、初瀬さん。でも私は大丈夫」

そう言うと視線を下に落とす。
その先には、自分の指に付けられた指輪がある。
指輪の付いた手を自分の胸へと持っていき、逆の手で指輪にそっと触れた。

「交神は、自分の為にするって決めているから」
「雪衣?」
「私ね、本当に大好きな人が居るの」

雪衣の言葉に思わず雪衣から視線を外す茜葎。

「その人の事が本当に大好きで、想う度に胸が熱くなって、幸せで、泣きたくなって。私にとって失いたくない、とても大切な気持ちよ。でもね、そこで立ち止まっていては駄目なの。過去ばかり振り返って泣いているのは、彼を好きになった私の気持ちだけではなく、この気持ちを私にくれた彼の事も冒涜することになる」

雪衣の目に涙が溢れかえる。

「だから前に進みたい。ほんの少しだけでも。進んだ先で幸せになって、私が私の事を誇れるように。いつか彼の事を好きになって本当に良かったって、自信を持って言えるように」

その言葉が終わるや否や、雪衣に肩に初瀬が縋り寄った。

「雪ー衣ーーっ!! 雪衣は本当に偉いよ、全然駄目じゃないんだからね」

初瀬は既に大号泣している。

「うん、雪衣は本当に凄い、凄いよ」

反対の肩には、茜葎が凭れ掛かっていた。
これ以上は言葉にならず、その目も赤く涙が浮かんでいる。

「ありがとう、初瀬さん、茜葎」

涙を拭く事泣く、雪衣が言葉を返す。

「よーし今日はもう夜を徹して大宴会だっ! 楽しく過ごして涙なんて吹き飛ばしちゃおうっ!」
「ちょっと初瀬さん、ボクは徹夜なんてしたくない」
「茜葎ぃ、ここで寝たら朝食の時にみんなの前で交神の時の話をさせるからねっ」
「そんな事ボクは絶対やらないからっ!」

恐らく無理して騒ぎ立てようとしてる二人を見て、まだ涙が残った顔に嬉しそうな笑顔を雪衣は浮かべた。

辛くない、って言ったら嘘になる。
それでも前へ進もうと決めたのは、進んだ道の先で今以上の幸せを見つける事が、今の私に一番必要な未来だと知っているから。
その未来は、私にこれほど大切な気持ちをくれた彼が、とても素晴らしい人なのだと言う証左にもなってくれるはずだから。


とうとうこの件を真正面から語る時が来てしまいました。
雪衣の恋について、です。
この先は多分凄く長くなります。出来るだけ簡潔にするよう心掛けますが……。
(と、前置き)

個人的にプレイヤーが雪衣に付けている二つ名は「高千穂家の時限爆弾」だったりします。
その二つ名が示す通り、雪衣は後々になってから色々な事を起こす子でして。

まず前提として、高千穂一族のプレイ記に新しい一族を登場させるのは、その一族の人生を一通り追った後、と決めています。
リアルプレイ時の雪衣は、自己主張は殆ど無いけれど仕事はきっちりこなしてくれる、縁の下の力持ちといった役割でした。
(この辺は父親の命音とよく似ていますね)
そんな事もあり、当初は高千穂家内において雪衣の存在感がとても薄くなってしまい、とても困っておりました。

出来上がったプレイ記を見ると信じられない状態ですが、当時の雪衣世代3人は他の世代に比べて格段にキャラが薄くて、この世代をどう表現すればいいのか結構悩んでいたのですよ。
3人がメインとなる期間が前半の停滞時期に当たるのと、お家騒動(物理)が原因で冬郷だけ来訪が遅くなったのが世代としては大きい痛手となっていました。
そうやって悩みあぐねた末に「よし、雪衣は世代と世代を繋ぐバランサーって事にするか!」と決めて、間に差し込む閑話の予定を組み始めた直後に何か突然出てきたんです、この話が。
確かにプレイ記の中でも彼の行動を倣ってる部分はあったのですが、あれは単純に姿絵を買い続ける為の理由付けであって、そういう意味合いではありませんでした。
でもまぁそれも面白かろう!と思い、その路線で雪衣の人生をトレースし始めたら、まるでプレイ内容がこの話に帰結するように繋がって行きまして。
最終的には面白いを通り越して「一体何が起こったんだろう……」と困惑状態になってしまいました。

個人的に極め付けだったのが、この閑話のタイトル「ピュア・スノウ」
これは、佐々木ゆう子さんの「Pure Snow」と言う歌からつけました。
閑話のタイトルを考えていた時に、何の前触れもなく頭の中に過ぎった曲です。

佐々木ゆう子 PURE SNOW 歌詞&動画視聴 - 歌ネット
佐々木ゆう子の「PURE SNOW」動画視聴ページです。歌詞と動画を見ることができます。(歌いだし)粉雪が舞いおりてきた街で 歌ネットは無料の歌詞検索サービスです。

今知ったけど、この曲ってPS版俺屍の発売年に出た曲だったんだ。
数年前にデレマスでカバーされてるので、そちらでご存知の方もいるかもですね。
名曲なので、機会があれば聞いて頂ければなと。

その後に聞き直してみたら、これがまた曲が雪衣の状況に合ってるんですよ。
確かに出会ったのは雪衣が生まれた1月で、ゲーム内でも雪が降っていたのですから。

更に、「Pure Snow」の二番の歌詞を見て気付いてしまいました。
『一枚の写真』
確かに、一枚だけあるんですよ。高千穂家では当主の最終月に幻灯を撮っているので。
まさかなーと思ってその幻灯を確認したら、コレなんです。

全く意図してなかったんですが、何と隣同士です。何たる偶然。
さすがにコレを見つけた時には鳥肌が立ちました。
そりゃ大切にするだろうよ……これを心の支えにしていたんだね……雪衣……。

その後も偶然の産物は結構あって。
例えば1019年2月のプレイ記本編最後に載せたチャットは、偶然にもこの月に雪衣が訓練を付けて貰っていた事が判明したので、切っ掛けエピソードとして変更されたとか。
(元々あのチャットは雪衣ではなく命音が出てくる予定でした)
当主交代の意味合いがプロット作成中から変わったとか。
(この件は当該閑話「1020年8月 閑話:さよならのつばさ」でも少し語ってますね)
本来は当主就任直後の初秋が雪衣の交神予定だったのが、諸事情で雪の季節になったとか。
何だろう……ホント雪衣凄いね。

そういや東風吹姫が出てくる話を作っている時に、何故か作成がストップするような出来事が何度か起こったのも印象深いです。
当該閑話「1019年7月 閑話:運命は自分で掴め」でも話題に挙げていますが、実は他にも色々と起こっていました。
あれホント何だったんだろうなぁ……。

雪衣の恋路はここで一旦区切り……の筈ですが、この先も何だか色々とありそうな気が……。
だって彼女の物語はまだ完結していませんから。
今まで色々な事を起こしてきた雪衣なので、今後も何か起こしてくれるのではと少し期待してみたり、少々怖いなと思ってみたり。

話は変わって、女子会三人組がとても仲良しで微笑ましいですね。
茜葎はこの件に関してちょっと辛い立場だけど、それでも二人とも雪衣の事を大切に考えてくれているみたいで、何だか嬉しいな。
ホント雪衣はいい子だから、泣かせてしまった分、幸せになって欲しいです。
勿論、茜葎や初瀬、その他の一族みんな、幸せになって欲しいんですけどね。

何か長々と書き出していた筈なのに、一言もお相手の名前を出していないなぁ。
(何となく出せなかった)
冒頭の現代表現は「これは今ではない」って意味合いで使ってます。
「Pure Snow」の歌詞イメージから出してきた表現ですが、きっと指輪が見せてくれた幻、もしくは雪衣の前世的な何か、と言う事にしておきましょう。